東京三昧カレンダー 夏号vol.4

「東京で涼を感じる」をテーマに6~8月を特集。 地域の歴史や文化を感じられるイベントや夏にこそ訪れたいスポットなど、まだ知らない「東京の夏」を発見できるかも? さらに今号は地域の産業にスポットライトを当て、夏にふさわしい伝統技術を受け継ぐ企業も紹介しています。


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麦茶江戸風鈴江戸団扇東京涼感江戸・日本橋が生んだ夏の必需品江戸随一の繁華街、日本橋には和紙や竹材を扱う店が集積していました。人口密集地でもあり、熱気がこもりやすかった日本橋において、手軽に涼を取るために生まれたのが江戸団扇です。伊場仙はさらに時代をさかのぼり、1590年(天正18年)から、日本橋で団扇や扇子の商いを始めました。江戸後期には、初代・歌川豊国や歌川国芳、歌川広重などの絵師の版元になり、錦絵を刷り込んだ「浮世絵団扇」を考案しました。絵師の描く歌舞伎役者や花魁、日本の名所が刷り込まれた団扇は人気を博し、江戸庶民のみならず江戸土産として京や大坂の人に特集喜ばれたそうです。伝統と革新の融合に向けて江戸団扇は、形と作り方に特徴があります。団扇は丸い形が一般的ですが、元々は少し平べったいブラウン管のような形をしていました。また、京団扇とは異なり、一本の竹を丁寧に割いて、持ち手や骨組みを作るのも特徴的です。こうした日本の伝統文化、なかでも江戸文化の継承を軸としながら、江戸の風流を商品化したいと考え、吉田社長は世界に一つだけの風鈴を求めて1915年(大正4年)創業、篠原風鈴本舗が作る江戸風鈴には、通常の風鈴とは異なる3つの特徴があります。1つ目は、江戸時代から伝わる「宙吹き(ちゅうぶき)」という技法で作られている点です。型を使わずに熱したガラスを膨らますことから、大きさや形、音が全て異なる風鈴が生まれます。2つ目は、風鈴の鳴り口をあえてギザギザのまま残していることです。こうすることで、音の響きが良くなり、風が触れただけでも擦れる音が鳴ります。3つ目は、ガラスの内側から絵付けしていることです。大量生産されている風鈴は、外側に柄のシールを貼るものが多い中、江戸風鈴は全て職人が手描きで絵付けをしています。これにより、柄落ちを防ぎながら、ガラス本来の艶を残しています。これらの技術を受け継ぎ、江戸風鈴を製造しているのは当社を含めて2社だけです。魔除けから夏の風物詩へ風鈴は、奈良時代に仏教とともに日本に伝えられ、青銅製の風鐸(ふうたく)をお寺の軒の四隅に魔除けとして吊るすようになったことが始まりです。江戸時代になると、真っ赤に塗られたガラス製の風鈴が魔除けとして使用され、伝統製法を守るための手間は惜しみなく1908年(明治41年)創業の小川産業は、110年以上にわたって麦茶の製造を続けています。大正時代から代々受け継がれてきた大谷石の石窯を使い、原料となる麦がじっくり均等に加熱されるよう、砂から放射される遠赤外線を用いるのが特徴です。また、国産の丸くて大きい麦を砕かずに殻のまま使用して、180℃と250℃の石窯で2度煎りします。その際、煙が豆に入らないよう空気の通りを良くすることで、麦茶特有の香りや甘さが引き立つのです。日本の麦茶から、世界の「MUGI-CHA」へ「今後は国内だけでなく、世界へ進出したい」と小川社長は野心をのぞかせます。一方で、手間をかける分、大量生産ができないからこそ、事業を拡大させても丁寧に作り続けていくことが、当社が生き残る方法であると考えていま温多湿な夏を涼しく過ごすため、さまざまな創意工夫を凝らしてきた江戸・東京の人々。今回は、古くからの伝統技術を受け継ぐ3社を取材。その奥深い魅力をご紹介します。高有限会社篠原風鈴本舗小川産業株式会社株式会社伊場仙焙煎した麦の柔らかい香りが漂う工場内◉取材・文・撮影多田一裕、鈴木雅人4


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